(解説)労働者派遣事業新規許可申請【2022年度版】
目次
事前確認
労働者派遣事業の許可のために大きなハードルとして主に、資金・オフィス・スタッフの要件を満たす必要があります。許可申請の細かい要件を調べる前に、まずはざっくりとこの要件を満たしているかどうか確認してから、次へ読み進めてください。
資金
労働者派遣事業の許可要件の一つに資産要件があります。
これを基準資産といいますが、この基準資産が2,000万円以上必要になります。
会社であれば、純資産に相当する部分です。
オフィス
オフィスとは派遣事業の拠点となる事業所のことです。
許可条件として必要なのが、オフィスの広さがおおむね20㎡以上必要です。気をつななければならないことは、この20㎡には玄関やバス・トイレ・キッチンなど事業としては含まれないことです。
スタッフ
労働者派遣事業は、法人でも個人でも許可を取得することはできますが、1人ではできません。
なぜなら、派遣元責任者と職務代行者が必要だからです。
つまり、派遣事業を行うためには2人以上必要だということです。
以下では、法人を前提として説明をしていきます。
許可までの流れ
次に、許可までの流れを整理します。
①事業計画の立案
②事業所(オフィス)の準備
③派遣元責任者講習の受講
④申請書類・添付書類の準備
⑤許可申請
⑥書類の審査
⑦許可・事業開始
⑤の許可申請書の提出から⑥の許可まで約3ヶ月かかります。
加えて、①の事業計画の立案から④の書類の準備まで1ヵ月はかかるとみた方がよいでしょう。
⑤の申請受理まで、修正が発生するのが通常ですから④から⑤の間も2週間から1ヵ月程度見ておいた方がよいでしょう。
以上まとめると、はじめの準備から事業開始までは5か月、余裕をもって半年前からの準備が必要になります。
もっと早く許可が必要だという場合には、お問い合わせください。
1ヵ月以上は、短縮することが可能です。
①事業計画の立案
事業計画の立案にあたり、主に検討する項目は2点です。
〇 派遣スタッフをどのような業種の会社へ派遣するのか。
〇 派遣スタッフをどのような形態で雇用するか。
派遣スタッフをどのような業種の会社へ派遣するのか。
まず、顧客となる予定の派遣先にどのような業種で派遣するのかを検討します。
派遣業を始めようと検討している時点で、すでに顧客になる見込みの会社はある程度想定されていると思いますので、そこで不足している業種の人材をリサーチします。また、業界の情報も収集しどのようなスキルをもった人材が必要なのかも知っておく必要があります。
派遣業界では、業界特化型の派遣会社が増えてきています。顧客の要望に応じて多くの職種に対応しようとすると専門性がないということで敬遠されることにもなりかねません。また、職種を広げると派遣会社に義務付けられている教育訓練の実施も行うことが難しくなってきます。はじめは業種や職種を絞って運営していき徐々に職種を増やしていく方法が得策です。
派遣スタッフをどのような形態で雇用するのか
次に、派遣業を始めるには、派遣先で働いてもらう派遣スタッフを採用する必要があります。この点は、通常の会社の採用活動と同じです。
採用する際には、雇用期間の定めのない契約(無期雇用契約)か雇用期間の定めのある契約(有期雇用契約)にするのかを決めておく必要があります。多くの派遣会社では、派遣先のニーズが変動することを見越して、有期雇用契約で更新を繰り返すことが多いです。ただし、有期雇用契約で派遣する場合には、一部の場合を除き抵触日の規定により3年までしか派遣することができません。
一方、無期雇用契約の場合には抵触日の規定が適用されませんので期間の制限を受けません。
派遣先の需要予測や自社で働くことができるか否かにより契約形態を決める必要があります。
また、登録制度を採用するかどうかも検討します。登録制度は、求職者と派遣会社とで雇用契約を結ぶ前に、求職者が派遣会社に登録をしておいて、派遣会社から仕事を紹介されて自分が働きたい仕事であれば雇用契約をその時に結んで派遣する形態です。通常は、有期雇用契約となり、派遣期間と一致する場合が多いです。派遣契約が終了すると雇用契約も終了するように設定されています。
以上のように、派遣スタッフを採用する場合に無期雇用契約にするのか、有期雇用契約にするのか、有期雇用契約にするのであれば登録制を採用するのかどうかこの点を検討する必要があります。
②事業所(オフィス)の準備
次にオフィスの準備です。
すでに別の事業で会社がすでにある場合には、現在のオフィスが派遣事業の許可の要件を満たしているかどうかを確認することが必要です。
事業所に関する判断 事業所について、事業に使用し得る面積がおおむね20㎡以上あるほか、その位置、設備等からみて、労働者派遣事業を行うのに適切であること。
・ 当該要件を満たすためには、次のいずれにも該当すること。
a 風俗営業等の規制及び業務の適正化等に関する法律(昭和23年法律第122号)で規制する風俗営業や性風俗特殊営業等が密集するなど事業の運営に好ましくない位置にないこと。
b 労働者派遣事業に使用し得る面積がおおむね20㎡以上あること。
(厚生労働省:「労働者派遣事業を適正に実施するために」から引用)
ここで、注意が必要なのでは、オフィス兼住居や居住スペースをオフィスとするような場合、玄関やバス・トイレ・キッチンなどはこの20㎡の中には入れないということです。事業として通常使う部分のみで20㎡必要とということになります。物件情報だけで判断するのは危険なので、仲介業者に確認したり、少し余裕をもった広さを確保したりすることが必要でしょう。
また、別の事業で使用している場合は、事務スペースを共用するなどその部分も含めることが可能です。ただし、派遣会社の法人単独で使用することが必要なので、別の法人が使用しているなど混在が認められる場合には許可されず申請が通らない可能性があるので注意が必要です。
③ 派遣元責任者講習の受講
申請に先立ってに遣元責任者となろうとする人が派遣元責任者講習を受講することが必要になります。受講日に即日発効される受講証明書の写しが申請の添付書類となっています。
この書類は、許可の申請の受理日前3年以内の受講日のものであれば有効なので、早めに受講することをお勧めします。なお、派遣元責任者講習は民間の複数の会社で実施していますのがどこで受講しても効力は同じです。
このほかにも、派遣元責任者となるには次の要件を満たすことが必要なので確認してください。
① 法第36条の規定により、未成年者でなく、法第6条第1号、第2号及び第4号から第9号までに掲げる欠格事由のいずれにも該当しないこと。
② 則第29条で定める要件、手続に従って派遣元責任者の選任がなされていること。
③ 住所及び居所が一定しない等生活根拠が不安定な者でないこと。
④ 適正な雇用管理を行う上で支障がない健康状態であること。
⑤ 不当に他人の精神、身体及び自由を拘束するおそれのない者であること。
⑥ 公衆衛生又は公衆道徳上有害な業務に就かせる行為を行うおそれのない者であること。
⑦ 派遣元責任者となり得る者の名義を借用して、許可を得ようとするものでないこと。
⑧ 次のいずれかに該当する者であること。
(ⅰ) 成年に達した後、3年以上の雇用管理の経験を有する者 この場合において、「雇用管理の経験」とは、人事又は労務の担当者(事業主(法人の場合はその役員)、支店長、工場長その他事業所の長等労働基準法第41条第2号の「監督若しくは管理の地位にある者」を含む。)であったと評価できること、又は労働者派遣事業における派遣労働者若しくは登録者等の労務の担当者であったことをいう。
(ⅱ) 成年に達した後、職業安定行政又は労働基準行政に3年以上の経験を有する者
(ⅲ) 成年に達した後、民営職業紹介事業の従事者として3年以上の経験を有する者
(ⅳ) 成年に達した後、労働者供給事業の従事者として3年以上の経験を有する者
⑨ 厚生労働省告示(平成27年厚生労働省告示第392号)に定められた講習機関が実施する則第29条の2第1号で規定する「派遣元責任者講習」を受講(許可の申請の受理の日前3年以内の受講に限る。)した者であること。
⑩ 精神の機能の障害により派遣元責任者の業務を適正に行うに当たって必要な認知、判断及び意思疎通を適切に行うことができない者でないこと。
⑪ 外国人にあっては、原則として、入管法別表第一の一及び二の表並びに別表第二の表のいずれかの在留資格を有する者であること。
⑫ 派遣元責任者が苦情処理等の場合に、日帰りで往復できる地域に労働者派遣を行うものであること。
(厚生労働省:「労働者派遣事業を適正に実施するために」から引用)
④ 申請書類・添付書類の準備
準備する書類は、大きく分けて次の2種類があります。
・申請書類
・添付書類
申請書類
申請書類とは、厚生労働省で作成された決められた様式のことです。
新規許可申請では、様式第1号、第3号、第3号‐2を用意する必要があります。
様式第1号
これは申請書の表紙部分になるもので、法人の本店情報及び役員を記入することになります。
左下には、収入印紙を貼付することになります。
様式第3号
様式第3号では、派遣事業の事業計画をについて記載します。
様式第3号‐2
様式第3号ー2は、事業計画書の中でも特に重要な派遣労働者への教育訓練計画について記載することになります。
特に、「4」のキャリアアップに資する教育訓練については審査をする際に、重点的に見られるところになりますので、しっかりと計画を立てる必要があります。また必要な書類として記載されていませんが、この計画の詳細を別紙で求められることが一般的ですので、準備をする必要があります。
添付書類
添付書類とは、申請書類の記載事項を裏付ける書類のことをいいます。
添付書類を列挙すると、
〇定款・寄付行為
〇登記事項証明書
〇役員の住民票
〇役員の履歴書
〇個人情報適正管理規程
〇貸借対照表・損益計算書
〇株主資本等変動計算書
〇法人税の確定申告書の写し
〇法人税の納税証明書
〇不動産の登記事項証明書または賃貸借契約書の写し
〇就業規則や労働条件通知書の写し
〇派遣労働者のキャリア形成を念頭においた派遣先の提供のための事務手引、マニュアル等またはその概要の該当箇所の写し
〇派遣元責任者の住民票
〇派遣元責任者の履歴書
〇派遣元責任者講習受講証明書の写し
参考資料
添付資料の位置づけではありませんが、参考資料として以下の書類の提出を求められることが一般的です。
〇自己チェックシート(様式第15号)
〇就業規則の写し(労働基準監督署の受理印があるページ)
〇教育訓練計画の詳細別紙
⑤許可申請
申請書と添付書類が準備できれば、許可申請となります。
申請は厚生労働大臣あてになりますが、実務上は会社の本店所在地のある都道府県労働局に書類を提出し、審査を受けることになります。
通常1回で受理されることは少なく、何らかの不備を指摘され少なくとも2~3回程度修正を求められることが多いです。事業を始める時期をずらすことができない事情がある場合には、この修正期間も考慮して計画を立てることをお勧めします。
申請書類の受理段階では書類に不備がないかの形式審査になります。
受理後は、書類の内容を精査する実体審査に移ります。
忘れてはいけないのが、手数料についてです。
登録免許税が9万円(納付書を提出)、審査手数料(収入印紙を貼付)が12万円+事業所を2つ目から1つ増やすごとに5万5千円必要です。提出時期について、各都道府県労働局で異なっている場合がありますが、受理時と考えておいた方がよいでしょう。
⑥書類の審査
各都道府県労働局で受理された書類は、まず労働局の需給調整事業部で実体審査が開始され、同時に申請した事業所が申請どおりの要件を満たしているかどうかの、実地調査を行います。
実地調査では、労働局の職員が実際に事務所に赴いて広さやレイアウトなどを調査します。また、他の法人と明確に区別されているかや、キャビネットやシュレッダーなど個人情報が適切に扱われる備品があるかも見られますので、事業開始前であっても準備しておく必要があります。その際には、派遣元責任者が同席して対応を求められること通常です。
法人の本店と派遣事業を行う都道府県が異なる場合、実地調査の依頼を本店所在地の労働局から事業所所在地の労働局へ調査の依頼をすることになります。日程の調整などで送れる場合がありますので、できるだけ労働局側の提示した日程を受け入れられるように気を付ける必要があります。
労働局での書類の審査と実地調査が終了すれば、書類は厚生労働省(本省)の需給調整事業部へ進達されます。
本省でも審査が行われ、労働政策審議会職業安定分科会労働力需給制度部会で諮られて問題がなければ厚生労働大臣から許可されることになります。
⑦ 許可・事業開始
許可が下りると、労働局から連絡があり郵送または労働局で許可証を渡されます。
その際に、許可証の交付式を開催して許可証の交付と派遣事業の運営についての講習を実施しているところも多いですので、積極的に参加しておくことをお勧めします。
許可証と同時に許可条件通知書というものも交付されますので、許可証といっしょに事業所に掲示しておきましょう。
最後に
以上が派遣の新規許可申請に関する流れと説明になります。
最後に何点か注意点を述べておきます。
労働局(労働基準監督署や職業安定所を含む)に提出する書類の中で申請をするものというのは、助成金を除けば数としては少ないです。ほとんどが届出(就業規則や36協定など)でそのイメージで考えていると、修正を何度も求められることになり後からしんどくなります。
その理由は、許可申請は届出とは異なり行政サイドに一定の裁量が認められるからです。マニュアルや手引きなどに記載されていないことであっても書類の提出や説明を求められることがあります。そこへ「どこに根拠があるのか」や「どうすれば審査にとおるか」と詰め寄っても意味がありませんし、時間が経過するだけです。
36協定や就業規則のように法律上提出が義務付けられて、行政もそのチェックをしなければならない立場とは違うことを理解する必要があります。許可や助成金など利益を得たいのであれば行政の求めに協力していく姿勢が大切です。悪い言い方をすると、行政としては「別に頼んで申請してくれといっていないので、嫌なら申請してもらわないでいいですよ。」というスタンスです。
このあたりをうまくできる人は、専門家に頼まなくてもスムーズにやっていけるでしょう。
出来るだけ早く許可を得たいということであれば、社長自ら申請書類を作成することをお勧めします。社員とはくらべものにならないほどスピード感もありますし熱意もあります。もし時間がないということであれば、派遣業などの専門の社会保険労務士に依頼すべきでしょう。
私が労働局の職員として特定派遣から一般派遣への切り替えの時期に審査している際、派遣法を知らない社会保険労務士が許可要件を満たしていない事項を見落としていて審査が止まってしまった結果、契約を解除された方は片手では数えられないくらいいました。
1ヵ月許可が早まれば、その分会社の利益が1か月分増えることになります。多少費用はかかっても専門家を頼った方が結局はコストパフォーマンスがよいと思います。
ご相談がありましたら、こちらまでお願いします。